O氏も立派な被告の一人である。裁判は、どちらにしてもこちらが一方的に不利だ。ふつうに進行すればあっという間に判決が出て明け渡し命令を受け取って終わりだ。だが、考えてみれば玉川台もそうだった。あの時だってO氏に有利なことなど何ひとつなかった。ただただ、負けたくないために、愚にもつかない屁理屈を支離滅裂な文章で綴り、それを提出した。結果としては裁判官も相手の弁護士も、O氏の訴えたい内容を理解することもできずに、裁判こそ負けたものの一千万円の立ち退き料を入手できた。
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どうせなら、今回も相手をケムに巻いてやろう。O氏は数日をかけて答弁書を作り、口頭弁論へと出廷した。相手側はもちろん原告代理人の弁護士だ。そのなかには、オウム真理教事件などでテレビもよく出ているT弁護士の姿もあった。あんな有名な弁護士がなんで来てるんだろうと思ったが、考えてみたらここは横浜だ。T弁護士がいてもおかしくはない。それに、人権派の看板だけじゃ飯も食えるわけがない。弁護士はもっぱら民事で収入を得るのだ。O氏は、腹を決めて答弁書を手に取った。内容はあいもかわらぬ強弁とこじつけで構成されている。賃料を半分にすると前オーナーから申し出があった、赤字経営だったので一時的に賃貸契約を停止した、改修工事に手間取ったので実際に賃貸したのは契約書の日付とは違う……。どこから考え出したのかは知らないが、よくもまあこれだけこじつけられるものだ。